初めての海外旅行
今を去る事15年前、自称芸術家の「まさる君」は、とある街の繁華街にある小さなバーで、お気に入りの音楽を聴きながら一人飲んでおりました。オーナー兼バーテンの「けんちゃん」は古くからの付き合いで、勘定も取ったり取らなかったり。
「やっぱりロックは70年代のブリティッシュが一番だなぁ~」とか何とか2人でやりあっていたある夜、不意に開いたドアから入ってきた妙に場違いな欧米人女性2人。腕時計は夜中の1時を回ったところ。
まさる君がこの二人に対する考察を始めるまもなく、そのうちの一人はバーテンのけんちゃんにつつっと近寄ると慣れた仕草で頬にキスをしてカウンターの端っこで何やら親密に話を始めました。
一方連れの女性は身の置き場に困った様子で、暫くはまさる君と同じように親密な2人を見ておりましたが、矢庭にカウンター席のひとつに身を投げるように座り「ビール!」。
けんちゃんは初めてその客にきずいた様子で、あわててグラスと、冷えたビールの栓をあけ彼女にどうぞととばかりに無言で押しやり、もと通りにカウンターの隅に戻って行きました。
全く英語ができないまさる君は、なるべくその2人と目が合わないように仕切りとグラスを口に運んだせいで、いつものペースを見失い、次第に食べかけの冷奴みたいになり、「けんちゃん!アルバム終わったよ!次クラッシュ行こう、クラッシュ!」なんて、定番の酔っ払いの出来上がり。
そんな陽気さに誘われたのか、一人で座っていたカウンターの彼女がまさる君に声をかけてきた。
「ナイスチョイス!」「アイライクイット!」。
矢でも鉄砲でも持って来い状態のまさる君も「何々?ねっちょ?え?あらき?あんたもリクエストしてみれば?けんちゃん次ディランいこ!」なんて、ベンチに牽制球出したピッチャーみたいになっちゃってるのに彼女も負けてない。けんちゃんに断りもせずにずかずかカウンターの中に入り、ビールをあけまさる君のグラスに注いだかと思うと、残ったビールをグビグビ自分であおり、振り向きざまターンテーブルのレコードを取り出し「ヒーズアゴ―ン!」「ブラディーイディエット!」とわめきながらニックケーブかなんかかけて、しまいにはカウンターの上に上がって踊り出す始末。
嵐のような夜が明けるころには、2人意気投合して黄色い太陽の下、家路についたのでした、、、、、、。
問題の嵐の夜
翌日、財布の中に見覚えのない紙切れが1枚。あけてみると「TYO-HKG-MEL PHXXXXXX ジェニー」と書いてある。急に不安になったまさる君、けんちゃんのバーに携帯から電話をしました。「けんちゃん、あ、俺、、、」と、どう話そうか詰まってるところに突っ込んできて「あ、まさる?チケット届いてるよ!メルボルン行き!」
電話の向こうでけんちゃんがニヤニヤしているのが、まさる君にも分かったそうです。
あちらこちらで梅の花が咲くメルボルンですが、まさる君の運命やいかに。
(ふっ )