2020.09.03

皆さんこんにちは、スノーウィーです。

先日、アムステルダム動物園の近くにあるホランド劇場を訪れました。

ここは第二次大戦下でナチスドイツの支配下に置かれたアムステルダムの、ユダヤ人専用の劇場であり、また1943年からは各強制収容所へ送られるユダヤ人を登録する移送センターでした。

当時ナチスドイツは、ドイツでの労働を課すという建前でオランダに住むユダヤ人に呼びかけます。
オランダから強制収容所に送られたユダヤ人は約10万5000人、その中には「招集」によって自主的に出頭した人も少なくなかったのです。

アンネ・フランクの家族は、16歳の長女マルゴーにこの招集状が来たため、その翌日1942年7月6日に父オットーが用意していた隠れ家に潜伏しました。フランク氏は国内では禁じられているイギリスからのラジオ放送を傍受し、収容所に送られたユダヤ人が殺されているという情報を得ていたので、危険にすぐ気づいたのです。

しかし誰もが隠れる場所を見つけられたわけではありません。特に、小さな子供や老人を抱えた家庭には無理でした。
また強制収容所での暮らしを楽観する人もいました。下手に抵抗するより、大人しく従った方がいいのでは、と判断したのです。
恐ろしい状況に置かれた時、逆に動けなくなってしまうのは一種の防衛反応です。
身に迫る危険を傍観し、何とかなるさ、とやり過ごせると期待してしまうのです。

しかしこの移送センターから送られたユダヤ人のほとんどが、生きて帰ってくることはありませんでした。

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現在、本堂があった部分はがらんどうになってユダヤ人迫害を悼む記念碑が建っています。

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記念碑の後ろに回りこむと、劇場がやっていた時は楽屋裏だった中庭に続きます。
この写真の女性は移送を待つ間、庭を挟んで反対側の家に住むオランダ人の友人(撮影者)に手を振っているところです。屈託のない笑顔が胸に刺さります。

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路面電車の乗り場を挟んで移送センターの向かい側は、保育所でした。
多くの人が移送センターで手続きをして強制収容所に送られる間、何とここでは、密かにユダヤ人の子供たちの救出劇が行われていました。
ここで年端のいかない子供たちを預かり、名前を変え、過去を封じ、レジスタンス活動家の協力でキリスト教家庭の里親たちに託されました。
そしてユダヤ人の親達は強制収容所に送られます。戦後、子供を迎えに戻って来た親はほとんどいませんでした。
この建物は2022年にホロコースト博物館として公開するため、現在工事中です。

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この見学の帰り道、ワーテルローの広場のすぐ近くで意外なものを見つけました。
跳ね橋に付けられた名前が彫られたプレートです。

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アムステルダムの街中ではよく橋に名前が付いてるのを見かけます。
これは第二次世界大戦中のレジスタンス活動家たちの名前です。

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これまでもこの橋を何度も何度も通っているのに、このプレートに気付いたのはこれが初めてでした。
そしてその名前に見覚えがありました。調べてみると、彼の名前はウォルター・ススキンド、ドイツ系ユダヤ人です。
そしてなんと先ほど訪れたホランド劇場、そして保育所での子供たちの救出計画に、大きく関わった人物でした。
私がこの名前を覚えていたのは、2012年に公開されたオランダ映画のタイトルだったのです。

(原題:Suskind 日本公開時のタイトルは「ナチスの犬 」)

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この繋がりに、何とも言えない衝撃を感じました。
実は、再び開催するアンネの日記のバーチャルツアーのための、追加取材中でした。
アムステルダムのホロコーストの記録の中で、この子供たちの救出劇は非常に興味深いものです。
厳しいユダヤ人への制限や、警察や親衛隊の目をかいくぐり、いかにも困難な計画を実現出来たのか?
それを調べている最中での邂逅は偶然とは思えませんでした。

アムステルダムの街では歴史的建造物が残り、多くの戦時中の名残やモニュメントもよく保存されているのは確かです。
しかしあまりのタイミングの良さに、「どうかこのことを知って、そして伝えてくれ」そう言われたような気がしました。

彼も必死で次の世代に命をつなごうと奮闘しました。
その後、このプレートに刻まれているように、彼は強制収容所で、妻と幼い娘と共に殺されています。
1944年9月2日、76年前の昨日、彼らはテレージエンシュタットに送られました。

陰鬱な時代の、やるせない物語は見る者の胸を重くします。
それでも知らないでいることは、自分にとっても更に悪いことだと思うのです。

■「アンネの日記」とアムステルダム・バーチャルツアー
好評につき再開催!

開催:9/21(月・祝) 19:00 (日本時間)
参加費:1人 15€
https://activities.his-j.com/TourLeaf/AMS0216/

「アンネの日記」を読んだことが無くても、タイトルは聞いたことがある方は多いかと思います。
ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害の中、オランダに逃れてきたフランク一家が暮らした街、アムステルダム。
第二次世界大戦の終戦75年のこの夏に、アンネの足跡を辿ります。
人類の幸せの意味を、現代の我々に問いかける「アンネの日記」、ぜひ機会があれば一度お読みください。

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