フィレンツェのサンタクローチェ教会界隈。
この辺りを歩けば数々の伝説や逸話に出会う。色々な分野での貴重なモノを発見することもそう珍しいことではない。
たとえば教会を背にして広場の左端。ここには1966年の大洪水でここまで水位が上がったことを示すレリーフが今もその当時の被害の凄まじさを伝えている。
たとえば教会横の道は14世紀の死刑囚が必ず通った路である。刑罰によって街を引きまわす順路が違い、途中で恩赦される事もあったと言われているけれど、この道に入った瞬間に刑は確定するというmalcontenti(マルコンテンティ)と呼ばれる路。ちなみにマルコンテンティは日本語では「不服、不満」という意味。
そして余り知られていないのが今回紹介する井戸の伝説。
とても悲し過ぎる伝説ゆえ語り継がれていないのかもしれない。
時は13世紀。まだ有名なパッツィ(Pazzi)、ストロッツィ(Strozzi)、メディチ(Medici)などの有力貴族誕生前夜。
アッチャイウォーリ家(Acciaiuoli)、バルディ家(Bardi)、ペルッツィ家(Peruzzi)が羊毛と金融業でフィレンツェ
を牛耳っていた時代。
彼らは主に教皇庁の御用金融機関として、またフランドル産毛織物の輸入・販売・加工を生業としていた。この金融機関としての機能が彼らに格別な富と後の破滅を与えるとは彼らも決して思わなかったに違いない。
サンタクローチェ教会に家族礼拝堂をもち、墓所としても使用するくらいの経済力と権力を欲しいままにしていた彼ら。今でもこの教会内部の主祭壇右のペルッツィ礼拝堂とバルディ礼拝堂には、ジョットが手がけた聖フランチェスコの生涯のフレスコ画が残り、昔の面影を見ることができる。
そのペルッツィ家当主の一人娘と革工房の職人が偶然にも出会ってしまい、恋に落ちる。
その当時の婚姻的繋がりは今のそれとは異なる。当時の貴族や商人の一族にとっての結婚は何よりも大きな戦略の一つと考えられていた。重要な血の繋がりの発生である。
我々の時代になっても中小企業が多いイタリアでは家族経営が基本。まして裏切りと同盟を繰り返す国民性がゆえ同じファミリーであるというのは非常に大切である。
その結果、当主の一人娘の幸せよりも家族のその後の繁栄を考えたであろうことは想像に難くない。ましてや今よりも厳しい階級社会のイタリア、一人娘の階級の異なる相手との恋愛結婚を許すことは重罪であったはずである。
当時ペルッツィ家が抱えていた問題はイギリス王の戦費の建て替えとフランスとの繋がりである。当然娘はそのどちらかに嫁ぐ予定であった。そこに突如降って涌いた下層階級の若者との恋愛である。一族の激怒の様子は推し量るべくもない。
当然の如く、当主ペルッツィはその青年の殺害を企て全面的に支持をする。そしてその当時も下層階級の憩いの場として使われたサンタ・クローチェ教会近くの広場で殺害され、落としこまれたのが曰くの井戸である。
その青年の殺害を知った一人娘は悲嘆にくれ、唯一結ばれる方法としてこの井戸に身を投げることを選ぶ。
当然の成り行きである。それ以来この井戸は使われることもなく、また埋められることもなく、建物の壁の後ろにひっそりと息を潜めて現味に至ったのである。
それがこの度、ペルッツィ家の末裔がこの地区に新しくおしゃれなバール
をオープンさせようと工事に取り掛かって表に出てきたのだから驚き。
オープンさせたバールのなかに一族にまつわる悲劇の井戸が存在するなんて、何と皮肉な事だろう・・・。
おしゃれな感じに飾られていますが、この下は曰くの井戸!!
ペルッツィ家の離散と再興は次回に続く。乞うご期待!!
この井戸に彼や彼女と行ってみたい!!という方は是非足を運んでみてください。
バール&レストラン「OIBO」
Via dei Benci 53r (Via dei BenciとVia dei Greciの角)
営業時間: 07:00-25:00 もちろん井戸は見たくない人にもオススメです!!
フィレンツェでは珍しいスタイリッシュなバー&レストランで、朝ならカプチーノとブリオッシュ、お昼なら簡単なパスタ類、夕食ではフルコースやピッツァも楽しめるし、夕飯あとは心地よい音楽と美味しいトスカーナワイン&カクテルを堪能とマルチで使えるので、時間に追われる旅行者でも一日のどの時間帯でも利用ができて便利!!
日本語メニューもあり、安心して食事やお酒を楽しめます。
シェフはヌーベルキュージーヌ出身のイタリア人なので、重たぁいトスカーナ料理はちょっと・・・というときに最適の料理が色々揃っています。
オープン以来、地元のイタリア人の朝、昼、夜、そして深夜の遊び場として御用達のバールとして人気はうなぎのぼり。お洒落な今風のイタリア人と出会ってみたい、そんなイタリア人を見てみたいという人は是非19時以降に行ってみてください。
19:00からはアペリティーボ(食前酒)タイムで、ワンドリンクでブッフェ形式の軽い食事も食べ放題。
そしてここに集うスノッブなイタリア人も買い物するお店が、バール&レストラン前にある、その名も「ペルッツィ 」。
サンタクローチェ教会界隈を散策するときにはちょっとお立ち寄りください。
ちょっとありきたりなフィレンツェに飽きたら、ディープなホンモノのフィレンツェがまだまだ残ってます。
記事写真提供:ペルッツィ・白川さん