イタリア(人)とカフェ。切っても切り離せませんね。
実はイタリアのカフェの歴史はヴェネツィアから始まるのです。
ヴェネツィアに初めてコーヒーが伝わったのは、1585年ヴェネツィア共和国下でのこと。当時のヴェネツィアの貿易商により盛んだった東方貿易により持ち込まれました。
コスタンティノープル(東ローマ帝国の首都、現在のイスタンブール)の人々の習慣である飲み物が伝えられたのです。それは “Khave’(cavee’)/カヴェ”と呼ばれる種からなる「黒くて苦い沸かした湯」と表されていました。覚醒作用のある強壮剤としての価値があったとされています。
コーヒーの起源に関しては多くのいわれがあります。そのなかのひとつでおもしろいものが、エチオピアの羊飼いの少年の話。
ある一定の草や葉を食べた羊が興奮状態(覚醒状態)に陥ることを発見した少年はそれを持って修道士のもとへ行きました。それを煎じて飲んでみたところ、自分でもその症状を確認したのです。そこで修道院での「教え」の際にその飲み物を飲ませることで教え子たちの頭をしっかりと目覚めさせることに成功したというもの。
飲料(嗜好品)としての歴史は14世紀から。1500年代後半には、メッカ(イスラム教の聖地、現在のサウジアラビア)からコンスタンティノープルまでの広範囲の西方アジア、イスラム圏の国々に広まっていました。
さて、ヴェネツィアで初めに用いられたコーヒーは薬用としてでしたが、その後まもなく砂糖で甘くした温かい飲み物として普及します。それは、チョコラータよりもお手頃感があり、健康にも良いとされていたのでまたたく間に世間に拡がったのです。
ヴェネツィアでは1683年サンマルコ広場を取り囲む回廊の下でコーヒー屋さんが初めて店舗を構え、その後1775年にギリシャのコルフ島からやってきたジョルジョ・クアードリにより、コーヒーをトルコから持ちこみ「カフェ・クアードリ」をオープン。現在の「カフェ」の始まりです。
その時からヴェネツィアのカフェには、たくさんの人々が集まるようになります。その場が休息の場としてはもちろん、人々の出会いやおしゃべりの中から文化や政治が発展する社交の場としての機能も果たすようになるのです。
カフェ・クアドリと並んでサンマルコ広場のもうひとつ有名なカフェといえば、「カフェ・クアードリ」と広場を挟んだ向かい側にある「カフェ・フローリアン」です。
1720年、フローリアン・フランチェスコにより開業。カフェオープン後はすぐにヴェネツィアでも最も権威のあるカフェとして急成長しました。多くのジャーナリスト、知識人、活動的な政治家が集まる場となったからです。彼らは政治的自由を求めたナポレオン支持派だったため、1796年にヴェネツィア共和国政府によってここから発する言動及び活動が警戒され、一度は閉店を余儀なくされたこともありました。
その後は再開店を果たし、1800年代には再び元のような賑わいを見せるようになり、多くの有名な詩人、芸術家などの集う場ともなったことはあまりにも有名。
さて、そのむか~し、ヴェネツィアにコーヒーが伝わったころのレシピがあります。
コーヒー沸かし器に1リットルの水、100gの挽いたコーヒーを入れ沸かします。湧いたら火から下ろし木製のスティックでかき混ぜます。再度火にかけ、湧いたらすぐに火からおろしかき混ぜ、これを3~4回繰り返します。その後そのまま10分ほど静かに置き、コーヒー粉が沈んだらその上澄みをカップに注ぎ、好みで砂糖を加えていただきます。煮出して飲用していたんですね。随分と手間のかかる飲み物です。
イタリア国内のカフェは数知れず・・・。でもそういったカフェのなかでも老舗と言われるカフェでは、やはり当時の雰囲気を味わうことのできる優雅な空間があり、ゆったりとした時の流れを楽しむことができます。
また、そこで働くカメリエーレ、バリスタのスマートな身のこなしなども様になっていて、その仕事ぶりはしっかりとしたプロ意識が見え隠れしているもの。注文を受けたカメリエーレがカウンターのバリスタに注文を告げ、その注文をメモをとることもなく次々と手際よくさばく姿は本当に格好いいものです。
写真のお店はヴェネツィア駅から出た大通り「lista di Spagna/リスタ・ディ・スパーニャ」を真っ直ぐ行った左手にあるコーヒー屋さんです。
中にはコーヒーを焙煎する機械や麻袋に詰められた豆などが山積みされていて雰囲気の良い小さな店です。店中がコーヒーの香りでいっぱい。もちろん立ち飲みもOK。ヴェネツィアのおみやげにも最適ですのでぜひ立寄ってみてください。
記事&写真提供:特派員白浜さん