特派員記事
2008.07.09
アルベロベッロを訪れる日本人観光客の大半は、残念ながら未だに団体ツアーです。団体で、運良く日本人ガイドが同行したとしても、道案内程度の説明しか得られず、観光に充てられた時間のほとんどを、ガイドの「オススメの店」なる所での買物で費やして終わります。
私の場合は道案内ガイドとは違い、町の歴史やトゥルッリの起源等、この町に関わる話を中心にガイドを進め、余った時間を買物に充て、旅行者の自由意志で買物をしてもらうようにしています。
ところで、旅行者のほとんどが気付いているようで気付いていないのは、買物にいそしむトゥルッリもまた、貴重な世界遺産の一部だという事です。そしてその中には、土産物に埋もれて気付かないものの、「見る価値有り」のトゥルッリもあります。
今回はそんなトゥルッリの中の一つ、「稀少なトゥルッリ」を紹介したいと思います。
「IL RICORDINO」(イル・リコルディーノ)は、土産物店が集中したモンティ地区と大通りを挟んだ向側にある小さな土産物店で、綿製品やタラッリ、パスタ、オリーブオイル、そして厳選したプーリアワインを扱うお店です。
ワイン樽が目印のこの店、外見では分りませんが、実は稀少な2階建てトゥルッリなのです。ほとんどのアルベロベッロのガイドブックには、「唯一の2階建てトゥルッリ」としてトゥルッロ・ソヴラーノ(入場料/大人1,50ユーロ)が紹介されていますが、イル・リコルディーノも正真正銘の2階建てです。これはやはり「見る価値有り」です。
トゥルッロ・ソヴラーノは12個のとんがり屋根を抱えた、町で一番大きいトゥルッリなのに対し、ここは、小ぢんまりとした小さなトゥルッリですが、壁の厚みを利用して階段を作っている点は、トゥルッロ・ソヴラーノと共通しています。
これは、あくまでも私の推測ですが、イル・リコルディーノの階段はトゥルッロ・ソヴラーノを作る前に実験的に作られたのではないか…。というのも、全体的に不揃いな階段の途中に、一段明らかに段差の大きい階段があります。途中で計算が合わなくなったのに気付き、2段にすべき所を1段にしてしまったのでしょうか?
そんな失敗を踏まえて作られた(?)トゥルッロ・ソヴラーノは段差の揃った上り易い階段になっています。
イル・リコルディーノの階段を上がると、小さなとんがり屋根が頭のすぐ上に迫る2階があります。以前、6人家族が住んでいたと言うこのトゥルッリ、2階は4人の娘達の部屋として使われていました。
階段を上がって右手の壁に作られた小さな窓から、テラスに出る事ができ、ちょっと高い所から町の様子が見渡せます。
また、石を積み重ねただけで作ったトゥルッリの屋根に、間近で見て触れる事が出来、更にとんがり屋根をバックに記念撮影も可能です。
このイル・リコルディーノ、稀少なのはトゥルッリだけではありません。店の女性オーナー、ジョルジーナ・パルミサーノさんのお母さんは、この町で初めて土産物店を開いた人なのです。
今から50年前の1958年、この町が世界的に有名な観光地になる遥か昔の、観光客もまばらなこの町に店を開き、娘がそれを受け継ぎ今日に至っているのです。
そしてもう一つ、アルベロベッロの土産物の記事に登場した変り種タラッリ、実はこの発案者はジョルジーナさんで、イル・リコルディーノでしか買えないオリジナル商品なのです。
ぱっと見は他のトゥルッリと変わらず、見過ごしてしまいがちな小さな店ですが、是非立ち寄って、2階を見学してみて下さい。
同様に、「皆同じ」に見える他の土産物屋も、トゥルッリの数だけ歴史や物語があります。
町案内ガイドが個人的な利益の為に「オススメの店」に団体ツアーを連れて行く行為は、これらの数多くある「見る価値有り」のトゥルッリの存在を否定すると同時に、遥か日本から、トゥルッリを見るためにアルベロベッロ観光のあるツアーを選んだ旅行者の、期待を裏切っている様に思えます。
観光ガイドの私がオススメしたい「見る価値有り」のトゥルッリはまだまだあるので、折を見て紹介していこうと思います。
IL RICORDINO (サイトはイタリア語のみ)
住所:Largo Martellotta, 88
記事&写真提供:特派員野口さん