ヴェネツィアを歩くと、道すがら実にたくさんの土産物店を見かけます。
が、その多くは今や中国製品ばかりだったりする現実も。
価格が安いことから、それらを買い求める観光客が多いのも、
この残念な現実を序長したりもしているのですが。
これもまた、買う側の判断がすべてなので、
偽物だからといって全てを否定はできないことなのです。
そんななか、もちろん本物を売る店も健在です。
ムラーノのガラス、カーニバルで多く見かけられる仮面など、
伝統の技法を守り続けるアルティジャナーレ(職人)の手によって
つくられたものだけを売る店の一軒がここ『Marco’s shop』。
最近では、ムラーノのガラスもすっきりとしたデザインのモダンな製品も多く出回り、それもまた美しいものですが、同店は昔ながらの伝統的なデザインを模した製品を売る堅実な店。
一見少々古めかしさを感じるのは否めないものの、それらの商品をよく見ると、やはり本物の美しさを感じることができるのです。
グラスひとつを見ても、
美しい色合いの手描きの絵付けと美しい金箔の組み合わせなどは、
ムラーノならではの技法によるもの。
これは「トレ・フォーキ tre fuochi」と呼ばれる技法。
トレ・フォーキとは直訳すると3回の火。
つまりは、加熱を3回に分けて行われます。
一度めはガラスを成型するためのもの。1700‐800℃まで温度を上げたなかで焼きつけ、製品の形をつくります。これを冷まし、今度は金を貼り、再度火の中へ。さらに冷ましてから絵付け。それをまた更に火に入れて冷ますことにより、ガラス表面のデザインが完成いていきます。
そしてもうひとつは「ムッリーナmullina」と呼ばれるもの。
直径5mmほどの棒状の芯部分に花模様のようなデザインがつながっています。金太郎飴のよう、というと想像しやすいでしょうか。この棒のことをムッリーナと呼ぶそうで、これを使ったガラス製品自体をまた、そう呼ぶのだそうです。
このムッリーナの柄は様々で色合いも大変に鮮やか。それらをクリスタルの板に押しつけて、はんこを押すようにして一枚のオリジナルの柄をもった板にする。もちろん熱を加えてクリスタルに版をしていきます。
こうしてできた板に熱を加えながらグラスなどの形に成型していくのです。ムッリーナの並びなどにより、それぞれの柄が微妙に異なり、できあがった製品は、色も鮮やか、デザインも可愛らしいもの。
こういった手のこんだムラーノならではの商品を
ここでは見つけることができるのです。
店内には、ムラーノガラスが世界の貴族たちに魅了される要因となった
ムラーノならではの豪華シャンデリアも
もちろん天井に吊らされており、
そして、ヴェネツィア特有の幻想的なマスケラ(仮面)も多くあります。
もちろん、これらもヴェネツィアに息づくアルティジャナーレの手による、本物ばかり。
店主はヴェネツィア生まれ、ヴェネツィア育ちのエッテEtte氏、
そして奥様のヴァレリアValeriaさんが
1986年からこの地で同店を守っています。
二人とも生粋のヴェネツィアーニ、「ヴェネツィアD.O.C」。
ちなみに最近、ヴェネツィア本島は過疎化が深刻な問題となっており、
原産地呼称としてワインの銘柄に与えられる
D.O.C(denominazione di origine controllata)をという呼称を、
真のヴェネツィアーニに与えて、ヴェネツィアの土地を守ろうとする動きもあるのです。
一見無口そうながら、
ヴェネツィアのことを語りだすと止まらない、
ヴェネツィアをこよなく愛する彼らのもとで、味のある商品を探してみませんか。
Marco’s Shop
Calle di Mezzo 1232, S.Polo, Venezia
Tel; 041.5229648
記事&写真提供: 特派員 白浜亜紀 こちらもチェック