ヴェネツィアから電車で約1時間。北西にあるトレヴィーゾという町。
街中には運河がめぐり、ヴェネツィア共和国時代に築きあげられた城壁に囲まれた大変美しい町。
世界的なアパレル会社であるベネトンや電化製品メーカーとして有名なデロンギの生まれた町でもあります。
そして、実はこイタリアンドルチェとしてはイタリアはもちろん世界じゅうに最も認知度が高いであろうと思われる「ティラミス」の発祥の地でもあるのです。
とはいうものの、ティラミス発祥については諸説があり、
ピエモンテ州トリノからトスカーナ州シエナまで
各地それぞれの逸話があるのですが、
現在一般論としては、ここトレヴィーゾ説が有力なのではと思います。
ここで、ティラミスをおさらいしましょう。
ティラミスの語源はイタリア語で“ティーラ(tira)=引き上げる”と“ミ(mi)=私”そして“スー(sù)=上へ”を合わせた言葉。合わせると「自分を上に引き上げる=元気になる」という意味。
サヴォイアルディと呼ばれる軽いビスケットまたはスポンジケーキに濃いエスプレッソを浸したものに、マスカルポーネと泡立てた卵(卵黄)などを合わせたクリームを交互に重ねたもの。
仕上げにはココアをたっぷりとふりかけて完成。
シンプルですが、結構どっしりとしたドルチェです。
前述のような名前の語源を考えると、これで精力をつけるという意味では理にかなっているのかもしれません。
さて、同ドルチェのトレヴィーゾ説のなかにもさらに諸説あり、
ルーツはあのレストランだとか、
このパスティッチェリア(菓子店)だ、
とか言われているのですが、その真相はこれまた闇の中。
そのうちでも最も有力視されているのが、
町の中心にある創業1939年の老舗レストラン説。
その名は「レ・ベッケリエ」。
ベッケリエ(肉屋)がその当時店の前にあったこともあり、今なお残る店のシンボルマークは大きな肉切り包丁。
現在のオーナーはカルロ・カンペオール氏。
マダムであるフランチェスカさんとともにこの伝統ある店を守っています。
もちろんイタリアらしく代々続く家族経営の店。
同店は土地の伝統的な料理を提供する正統派レストラン。
定番料理はもちろん季節やその時の美味しいものを提供して、
地元の人たちに愛されている店。
老舗らしい重厚な雰囲気を持ちながら、
美味しい料理とスマートなプロのサービスが客を心地よい気分にさせています。
この日はカルロさんのお勧めに従い、
ズッキーニとパンチェッタのタリアテッレと目の前で味付けのサービスをしてくれたカルパッチョ。
夏のランチにはふさわしい軽やかな仕上がり。
そしてそして締めはやっぱり伝説のティラミス。
これだけ広く知れ渡っているドルチェだけあり、
同ドルチェを口にする機会は今までにも何度もあるにせよ、
現代風な好みに、つまりは口当たりを軽くしたり、リキュールで風味づけされたり
アレンジされたそれに出会う確率のほうが高いのですが。
これはまさしくシンプル・イズ・ベスト!
しっかりとした甘さとコーヒーとたっぷりのココアのほろ苦さのバランスが非常に良いのです。
オーナーのカルロさんに話を聞きました。
ティラミスを考案したのは彼の母親であるアルバさん。
その当時の店の料理人さんとともに子供からお年寄りまでが楽しめるドルチェをということでできたものだといいいます。
母から伝わるレシピを現在もアレンジすることなくそのまま再現し、お客さまに振舞っています。
重ねられたクリームは重ねられた歴史。
美しい町トレヴィーゾへ本物のティラミスの旅、いかがですか。
Ristorante Le Beccherie
Piazza Anciotto, Treviso
tel;0422.540871
記事&写真提供: 特派員 白浜亜紀 こちらもチェック