時計の針は13:30を既に回ろうとしていた・・・。


なんだかんだと5時間以上も続いた地獄の『登山』もハーフドームの斜面に

架かるケーブルを掴まって頂上まで登りきれば、完遂ということになる。


『2007年6月5日午後2:00、われ登頂に成功せり・・』

といったセリフをこれ見よがしに各方面に電話する気マンマンでいた。

(ちなみにハーフドームの頂上は携帯電話が通じるとの噂・・・)


いつ終わるのかという疑問ばかりが頭をよぎったこの征服企画もこれで

終わりかと思うと、なんとなく寂しかったりして・・・。weep


ケーブルを間近に見据えながら、自分よりも20分ほど先に頂上を目指して

いた、先遣隊がケーブルにぶら下がってないかどうかを遠目に探すが、

それらしき人影は見えず、その時点で彼らが既に頂上に辿り着いた

ことを悟る。


私も征服するための準備運動の一環で、2本のケーブルまで行って見て

みると、噂通りといえばそれまでですが、かなりの『傾斜』です。

45度位・・・と言われても、ピンと来なかったのですが、いざこの

まなこで見てみると、って感じです。


傾斜というよりも断崖絶壁といった方が、雰囲気的にもあってるような・・・・






高所恐怖症の方は、『絶対にダメ』ですよ、ここは。

ちなみにこの写真の両端は奈落の底へと続く崖。


事前に用意していたイボイボの付いた軍手を両手にはめて準備が

整いつつあったまさにその時、なんか冷たい感触が頬から脳に送られて

いるのに気が付いた。


『んっ?』


という間もないほど、突然の『雹(ヒョウ)』

が、上からではなくなんと横から吹き付けて来たではないですか。

横殴りの雨というのは聞いたことがありますが、なんと横殴りの雹とは。

しかも、音速とも思えるような速さで吹き荒ぶ雹が横顔に当たると

露出している部分(特に顔面)には尋常ではない痛みが。

避けようにも、周りには遮蔽物が殆どない・・・・・。


マズイという感覚が脳裏に浮かぶよりも早く、本能は視線を頂上に向けさせ

ていた。既に頂上は真っ白な霧によって完全に包まれており、

ケーブルもつい先までと比べても全体の半分位しか見ることができない。


『2名の先遣隊は果たして無事なのか・・・・』


それを知ろうにも、確認する手段が全くない。


『山の天気は変わりやすい・・』


恐らく生まれて始めてその意味が分かったような気がする。

遭難するということはこういうことだな・・・と妙に納得するものの、

納得している場合ではなく、


時すでに遅し・・・・。


周りの気温も一気に低下して行っているのがはっきり分かる。

滑り止め用として持ってきた軍手はいつの間にか、防寒手袋として用を足す

ことになっていた。まさかこんな形でこの軍手を使うことになるとは・・・・。

霧はあっと言う間に周辺を全て覆い尽くし、頂上にいる訳でも無い我々の

周辺ですら周囲が良く見えなくなって来ていた・・・・・。


『非常にマズイ・・・』


というのは、今回この企画をするにあたっての『人体実験shadow』、、、、

ではなく、男性のほかに女性にとってこの行程は難しい・・・もしくは

不可能なのかを判断するために支店女性スタッフを2名連れて行っていた

ものの、2人ともあまりの寒さに震えていた。

疲れ切った2人にこの状況下で下山できるのかということと、恐らく頂上

にいると思われる先遣隊2名の『生存』が確認できない・・・・。

ちょっと待ってよ、ここは

『エベレストじゃないんだから・・・』


と冗談を言っている余裕はもちろん、その時は全くない。

驚くのは突然の雹だけでなく、吹き荒ぶ風が半端じゃない。

ハーフドームに抱きつくように張り付いていないと、飛ばされてしまいそう。


かく言う私も、恐ろしく寒い状況に我慢できず、長袖シャツの上に持ってきて

いたトレーナーを羽織り、しかもそれでも寒いので、『着替え用』に持って来

ていた長袖シャツを更に着込みまさにモコモコ。

下界だったら変態扱いされかねない恐ろしい格好をなんの躊躇いもなく

できてしまうほど切羽詰っています。


もしかして、生まれて始めて生死を鑑みてしまう展開かも・・・・。

その一方で、5時間以上を掛けて11キロ以上の斜面を登って来て、

すでに頂上も目前という展開にも関わらず、登頂を『断念』しなけれ

ばならないのかもという恐怖にもにた意識が段々と疲れた脳みその大部分

を覆い始めていた。


腹は満腹、しかしそれ以外は最悪の状況。


『四面楚歌』とはよく言ったもので、乳飲み子同然となった女性社員

2名を従えて、あの斜面を下るという危険と頂上に行った2名の先遣隊。


隊長の私としてくだすべき判断は・・・・・。


先ずは本当にそんな作り話みたいな展開を誰が信じるであろう?という

不安の方が、己の生死よりも先に頭に浮かんでしまいまして・・・・・

しかも、これって確か、『出張?』扱いなんて思いながら、これでは

職務を遂行したことにならない恐怖が先立ち・・・・・・・


『証拠』として映像で撮っておこうということで撮ったのがこちら↓


音声を大にして聞いて頂くと、その時の状況が分かって頂けるはず。

雹が左から右に流れて行くのも見て取れます。

本当はもっとじっくりと撮りたかったのですが、立ち上がることもできず、

雹の痛みも半端じゃない状況で、実際に画面に映っている登山者も

進退に困っている状況。


果たして、この最悪の状況下で下した隊長の最終判断とは・・・・・・


【その11に続く】

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