横殴りの雹は、段々と雨をも含むようになってきていた。

雨はシャツを濡らし、我等の体温を奪おうとしていた・・・・・。


ハーフドームにかかる霧は一向にやむ気配はなく、うっすらと見えるハーフ

ドームの後方にはもっと濃い雲が見てとれる。


『まず、この状況が進展することはありえないな・・・』


隊長は隊員全員の生命の保証をしなくてはならない。

ここまで苦楽を共にした隊員の内、2名は全く見えなくなった頂上で

一体どんな状況に陥っているのか?


『彼等の下山を確認したいが・・・、しかしどうやって』


女子社員は、


『隊長!一体どうしたらいいの・・・・impact

という眼を向けている。


既に時計の針は14:00を回り、天候悪化から15分以上が経過しようと

している。

決断するなら今か・・・・。


『すぐそこが頂上なのに・・・・』wobbly

この期に及んで、今までの11キロの苦しみが脳裏に浮かぶ。

『そこまで行ったのに、

        登らなかったんですか??』smile


なんていう、誹謗中傷も聞こえる・・・。


登らなかったんじゃない・・・。

登れなかったんだ・・・。


『それって、どっちも一緒じゃない・・・・・』


という、もう一人の俺がささやく。


そんな妄想を振り払うためにも、隊員の運命を決めるにも

今が決断の時。


取った判断とは・・・・・・・








勇気ある撤退・・・・・・・・・・・







断腸の思とはまさにこの時の我々の思いを表していた。

上にいる先遣隊2名に関しては、我々がケーブル下にいても何も助けて

あげることが出来ないという判断から、彼等の生命力に賭けることにしshock

我々は下山を試みることにしたのだった。


その昔、ダグラス・マッカーサーは言ったもんだ、


『I Shall Return(私は戻ってくる)


今の私以外に彼の気持ちが分かる奴はこの世にはいない・・・・・・。


ハーフドームの既に見えなくなった頂上に向って、

I Shall Return.と叫んだかどうかは、実のところ定かではないが・・・・・・。


結果的に頂上に到達した先遣隊2名も、命からがら下山をし、無事に我々に

合流したものの、頂上到達と時を同じくして濃霧に囲まれ、四方からの雹に

打ちのめされたとのこと。

雹と雨に濡れたケーブルは命を預けるには心もとなく、頂上に取り残された

登山者はひたすら下山のチャンスが来るのを待つしかなかったものの、

『征服』した事実は変わりないのであった。


そこが彼等と私の大きな違い・・・。

隊長である私が征服しない訳には行かない。

となれば、再度アタックするしかない。


私はこの夏、もう一度ハーフドームにアタックします。


『登った人は人生が変わる・・・』


そもそも今回の登頂企画は上の一言から始まった。

結局登れなかったものの、この言葉が何を意味しているのかがなんとなく

分かるような気がしなくもない。

疲れ果てた先に待っていたあっけない幕引き。

ドラマにしてはあまりにも出来すぎの展開。


今の感想は??と聞かれれば、ただ一言。


『ふざけんな~~~!』weep


こんなこと、絶対あってはならないのだ。

一体誰がこんな終わり方にしろと頼んだのだ。

言っておくけど、俺はしつこいのだ!



今こそ


I Shall Return!






【完】


追伸:

このハーフドーム登頂に際してですが、もしも登頂する際に大事なことは

となれば、十分な水分補給が出来るように多めの水(少なくとも4リットル)

を持っていくこと。往復12時間ほど掛かることを想定した食料等の下準備

をはじめ、単なるシューズよりもハイカットのハイキングシューズをお勧め

するほか、トレイル歩き用のスティック(杖)もお勧めです。

今回往路に約6時間、復路に約4時間掛かりました。

要は、4時間ずっと下りのため足の裏とひざへの負担がかなりのもので

あったため、スティックがあればそれも軽減できたのではと思います。

それともう1つ言えるのは往復10~12時間を想定しますので、出発は早朝

の出来るだけ早い時間帯に出ることをお勧めします。

(特に夏場は日中の暑さを考えるとゾッとします。)

今回我々の登頂は天候の悪化により断念せざるを得なくなりましたが、

実際には朝の時点で天候が悪くなることがはっきりしていました。

もしも、登る際には必ずその日の天候を確認してください。無理は危険です。

(特に夏場は雷による落雷の危険がありますので要注意。)


このブログをお読みの方の中で、登頂に成功したという暁には是非とも

ご連絡頂ければ幸いです。

その声を励みに私も再アタックしたいと思います。


最後になりますが、ヨセミテバレー内のショップではハーフドーム登頂に

成功した者だけが着ることができるTシャツが販売されています。

成功者だけが着れるというその訳はというと、


『I Made It To The Top!』 【(ハーフドームの)頂上に登ったぞ!】


とシャツに書かれているシャツだからです。

私もいつか着てみたい・・・・・・

時計の針は13:30を既に回ろうとしていた・・・。


なんだかんだと5時間以上も続いた地獄の『登山』もハーフドームの斜面に

架かるケーブルを掴まって頂上まで登りきれば、完遂ということになる。


『2007年6月5日午後2:00、われ登頂に成功せり・・』

といったセリフをこれ見よがしに各方面に電話する気マンマンでいた。

(ちなみにハーフドームの頂上は携帯電話が通じるとの噂・・・)


いつ終わるのかという疑問ばかりが頭をよぎったこの征服企画もこれで

終わりかと思うと、なんとなく寂しかったりして・・・。weep


ケーブルを間近に見据えながら、自分よりも20分ほど先に頂上を目指して

いた、先遣隊がケーブルにぶら下がってないかどうかを遠目に探すが、

それらしき人影は見えず、その時点で彼らが既に頂上に辿り着いた

ことを悟る。


私も征服するための準備運動の一環で、2本のケーブルまで行って見て

みると、噂通りといえばそれまでですが、かなりの『傾斜』です。

45度位・・・と言われても、ピンと来なかったのですが、いざこの

まなこで見てみると、って感じです。


傾斜というよりも断崖絶壁といった方が、雰囲気的にもあってるような・・・・






高所恐怖症の方は、『絶対にダメ』ですよ、ここは。

ちなみにこの写真の両端は奈落の底へと続く崖。


事前に用意していたイボイボの付いた軍手を両手にはめて準備が

整いつつあったまさにその時、なんか冷たい感触が頬から脳に送られて

いるのに気が付いた。


『んっ?』


という間もないほど、突然の『雹(ヒョウ)』

が、上からではなくなんと横から吹き付けて来たではないですか。

横殴りの雨というのは聞いたことがありますが、なんと横殴りの雹とは。

しかも、音速とも思えるような速さで吹き荒ぶ雹が横顔に当たると

露出している部分(特に顔面)には尋常ではない痛みが。

避けようにも、周りには遮蔽物が殆どない・・・・・。


マズイという感覚が脳裏に浮かぶよりも早く、本能は視線を頂上に向けさせ

ていた。既に頂上は真っ白な霧によって完全に包まれており、

ケーブルもつい先までと比べても全体の半分位しか見ることができない。


『2名の先遣隊は果たして無事なのか・・・・』


それを知ろうにも、確認する手段が全くない。


『山の天気は変わりやすい・・』


恐らく生まれて始めてその意味が分かったような気がする。

遭難するということはこういうことだな・・・と妙に納得するものの、

納得している場合ではなく、


時すでに遅し・・・・。


周りの気温も一気に低下して行っているのがはっきり分かる。

滑り止め用として持ってきた軍手はいつの間にか、防寒手袋として用を足す

ことになっていた。まさかこんな形でこの軍手を使うことになるとは・・・・。

霧はあっと言う間に周辺を全て覆い尽くし、頂上にいる訳でも無い我々の

周辺ですら周囲が良く見えなくなって来ていた・・・・・。


『非常にマズイ・・・』


というのは、今回この企画をするにあたっての『人体実験shadow』、、、、

ではなく、男性のほかに女性にとってこの行程は難しい・・・もしくは

不可能なのかを判断するために支店女性スタッフを2名連れて行っていた

ものの、2人ともあまりの寒さに震えていた。

疲れ切った2人にこの状況下で下山できるのかということと、恐らく頂上

にいると思われる先遣隊2名の『生存』が確認できない・・・・。

ちょっと待ってよ、ここは

『エベレストじゃないんだから・・・』


と冗談を言っている余裕はもちろん、その時は全くない。

驚くのは突然の雹だけでなく、吹き荒ぶ風が半端じゃない。

ハーフドームに抱きつくように張り付いていないと、飛ばされてしまいそう。


かく言う私も、恐ろしく寒い状況に我慢できず、長袖シャツの上に持ってきて

いたトレーナーを羽織り、しかもそれでも寒いので、『着替え用』に持って来

ていた長袖シャツを更に着込みまさにモコモコ。

下界だったら変態扱いされかねない恐ろしい格好をなんの躊躇いもなく

できてしまうほど切羽詰っています。


もしかして、生まれて始めて生死を鑑みてしまう展開かも・・・・。

その一方で、5時間以上を掛けて11キロ以上の斜面を登って来て、

すでに頂上も目前という展開にも関わらず、登頂を『断念』しなけれ

ばならないのかもという恐怖にもにた意識が段々と疲れた脳みその大部分

を覆い始めていた。


腹は満腹、しかしそれ以外は最悪の状況。


『四面楚歌』とはよく言ったもので、乳飲み子同然となった女性社員

2名を従えて、あの斜面を下るという危険と頂上に行った2名の先遣隊。


隊長の私としてくだすべき判断は・・・・・。


先ずは本当にそんな作り話みたいな展開を誰が信じるであろう?という

不安の方が、己の生死よりも先に頭に浮かんでしまいまして・・・・・

しかも、これって確か、『出張?』扱いなんて思いながら、これでは

職務を遂行したことにならない恐怖が先立ち・・・・・・・


『証拠』として映像で撮っておこうということで撮ったのがこちら↓


音声を大にして聞いて頂くと、その時の状況が分かって頂けるはず。

雹が左から右に流れて行くのも見て取れます。

本当はもっとじっくりと撮りたかったのですが、立ち上がることもできず、

雹の痛みも半端じゃない状況で、実際に画面に映っている登山者も

進退に困っている状況。


果たして、この最悪の状況下で下した隊長の最終判断とは・・・・・・


【その11に続く】


確実にハーフドームの頂上に近づいていることだけは確か。

登り始めて既に5時間近くになろうとしている。


思えばココまでの道のりは長かったな・・・と。

片道6時間から8時間を覚悟していたものの、このペースであれば、

あと30分位で頂上だろうとタカをくくる。


こんな程度の斜面で頂上近くまで近づけるのであれば何とかなりそうだ。

という気分的な余裕は、写真を撮る余裕まででてきます。



普段は見れないハーフドームの裏側ってこんな景色が広がっていたんだぁ。

これもここまで来たから見れたわけで。

やっぱりココまで来た甲斐があった。(のかなぁ)


なんて思いながら頂上に向って歩いていると、やっと征服すべき頂上が!

まさに登られるのを、今か今かと指をくわえて待っているかのよう。



俺だってやれば、出来るじゃない。

何度もくじけそうになり、雨を恨むどころか、良いチャンスとばかりに

歓迎ムードにすら漂ったダメなわたくし。


『我敗れて山河あり』同然になりながらも


しかし、ここまで来ちゃったもんね。

なんて思っていると、なんだか雲行きがおかしくなってきた・・・・・。




またも、嫌がらせの登り坂。


『登れども、登れども、我が暮らし楽にならず』

などどいう素晴らしい名句を誰が残したかどうかは忘れたが、

いい加減、ホント何回登らす気?

しかも、今までの中で一番急なんじゃないコレ。


見てくださいよ、この斜面。



足腰フラフラの人間に登らせる傾斜じゃない!

(仕方ないので登ったけど・・)

ここまで来るのに30分位掛かってんじゃない。



既に『階段』という名のインフラなど、とっくの昔に消滅し

登りたきゃ、登れば!見たいな状況となり、


上の写真の2人なんて登るというより、這ってますよ。

この期に及んで匍匐前進なんて・・・・。



なんか、近づいているか何なのか良く分からない・・・・。

それにしてもニクイ感じでハーフドームの頂上に霧が掛かっている。


直ぐに頂上を見せない、なんともニクイ演出などど感心していると、

思いのほか、匍匐前進は更に私の体力を奪って行くのであった。

こんなことなら旅行会社などではなく、自衛隊に入隊しておけばよかった

などと本気で後悔しながら、休みたいけど、あまりに休憩するには不釣合い

な場所のため、考えた挙句にとった行為が


『写真を撮るフリ・・・heart01


撮ってみたのはこんな写真↓



だって、何も考えてませんから・・・

こんな状態じゃ、頂上にたどり着くまであと何回写真を撮らねばならんのだ

と、ウンザリしていると!!!!!!!!!!!!


『今度こそーsign01sign01sign01sign01sign01sign01sign01sign01




皆様、大変長らくお待たせいたしました。

こちらがハーフドーム頂上への最後の登り坂です。


ホント大したことないですよ。

ケーブルを握り締めて、ただ登れば良いだけですもん。

要はケーブルさえ離さなければ良いだけですもん・・・・・・・・・・。


って、もしもなんかの間違えで離してしまったら?


たぶん、






『確実に死んでしまいます・・・・・・・。』






だけど、、、、もうちょっと近づいて見れば、

どうでしょう?そんなに怖くもないですかね?



ケーブルは1メートルほどの間隔をあけて2本張られており、

頂上までの距離は約130メートルということです。


もう、マイル計算するまでもなく、たった130メートルですよ。

トレイルのスタート地点で見た、ハーフドームの頂上までの距離は

8.2マイル、くどいですけどキロ換算で11.3キロ


苦節10年、よくココまでもったものだ。

ここまでくればもう勝ったも同然。


『果報は寝て待て』とはよく言ったものだ。

しかし、今更寝て待つ訳にも行かず、よくよく考えると腹も減ってきた。


そういえば

『いざ、鎌倉!』なんて言葉もあったな・・・。

などと、先人の語学センスに敬服しながら、もはや征服同然となった

このシチュエーションを味わうためにも、ひとまず腹ごしらえをすべし。

ということで、おにぎりriceballではなく保険』として持ってきていた

サンドイッチを食べることに。

これまた、征服間近という余裕からか、格別の味。


モグモグと口を動かしながら頂上の方を眺めていると、ハーフドームの

後方になにやら不穏な雰囲気が!!!!


この先に起こるフィクションのような信じられない事態。

ヨセミテに女神はいないのか???


ハーフドーム登頂記もいよいよ佳境へ



(注:念のためですが、ハーフドームに架かるこのケーブルは通常、

5月終わりから10月初旬の限られた時期のみとなりますのと、

夏はカミナリに要注意ですので、登る際は必ず事前に天候を確認要。)


【その10に続く】

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2024.12
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